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「ああ、よしよし、俺が悪かったよ、ごめんね。無理しなくて大丈夫だから」
泣きじゃくる私を慰めるように、荘吾さんが私をそっと抱き寄せた。
――あ、れ……? 今、荘吾さん、なんて言った?
『死ぬな! 頼む……! 俺が悪かった……、俺が悪かったから……、死ぬな、都築……!』
突然、さっき電話越しに聞いた声で私をこの世界に引き止める言葉が再生された。
『起きろ、幸薄貧乳』
『俺が殺すまで死ぬな』
『泣くな、俺が物凄く悪いことをしているみたいだろう?』
『誰にも奪わせたくない』
『好きだ、愛してる』
そして、次々に時間を遡って、一気に駆け上がって、私は……すべてを思い出した。
『お前のためだ。俺から離れて、あいつと一緒になる以外にお前を安全に自由にする方法が無い』
同時に、この言葉がそのままで居ろと私を繋ぎ止める。記憶を取り戻したことを高見さんに言ってはいけないって。
「都築ちゃん、どうかした?」
一瞬動きの止まった私のことを高見さんが心配そうに見つめてくる。
「い、いえ、ちょっと困惑してしまって。たか……荘吾さん、ご飯食べましょう。すみません、冷めちゃいましたね」
そう言って、私は涙を拭いながら高見さんから離れて、椅子に座った。
「いいや、大丈夫、そのまま食べるよ」
優しい微笑みで、高見さんが向かいの席に座る。
「いただきます」
「いただきます」
私は記憶なんて取り戻していない。高見さんは、私の自由のために私と結婚してくれるんだ。私が禅さんとは一緒になれないことは決まってて、一番嫌な役目を買ってくれたのは高見さんだ。彼を傷付けることはしたくない。高見さんは私に道をくれたんだ。
禅さんが私に電話で話をしてきたのは、私の記憶を取り戻させるためじゃない。私に本当のお別れをするためだったんだ。諦めるために電話したんだ。
そうじゃなきゃ、彼が私に電話をしてくることなんてない。私と禅さんは一緒になれないことが決まってるから。生きるために一緒になれない。だから、記憶が戻っても、私が高見さんを選ぶって知っていたんですよね?
――でもね、禅さん、私、結婚するんですよ。結婚……、してしまうんですよ。
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