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結婚式当日になった。私は今、純白のドレスを着て、一つの扉の前に立っている。この扉の向こうでは高見さんが待っていて、来賓は誰も居ない。白いバラのブーケを左手に持って、深呼吸する。
「では、開けますね。お足元に気を付けて、ゆっくりどうぞ」
スーツを着た係の女性が二人、扉を両側に開けていく。
静かな空間で、赤い絨毯の先、段数の少ない階段を上ったところに、白いタキシードを着た高見さんの背中が見えた。
――私は今日、高見さんと結婚するんだ……。
なんだか、途端に申し訳なくなって、俯いてしまう。どんな顔で彼を見れば良いのか分からない。
「お手を」
係の女性が私の右手を取って、ゆっくりとヴァージンロードを歩き出す。
私の人生、色んなことがあった。そう思うのは、予期せずにヤクザの若頭を誘拐してしまって、色々な事件に巻き込まれ、たくさん言い合って、たくさん戦って、たくさん……愛情をもらったから……。
――駄目だ、泣いちゃ駄目だって、分かってるのに……。
純白のベールの下で涙が溢れた。結婚することで感極まって泣いてしまっていると係の人も牧師様も高見さんも思ってくれたら良いのに、と願う。
階段を上って、隣に立つ高見さんの腕に自分の手を添える。泣いていることを気にしてほしくなくて、どうしても彼の方を見ることが出来ない。
――ごめんなさい……、ごめんなさい……。
聖歌隊の人たちが賛美歌を一緒に歌ってくれているときも、牧師様が聖書を朗読してくれているときも、ずっと、私は俯いて、心の中で謝り続けていた。
「お祈りをいたします。アーメン」
神様に祈っているときでさえも、私の中に罪悪感が溢れてきて、本当に涙が止まらなくなってしまった。
本当は申し訳なさの片隅で、式の途中にドラマみたいに後ろの扉を勢い良く開けて、禅さんが私を奪いに来てくれるんじゃないかって思ってる。でも、いくら待っても、禅さんは来ない。扉は開かない。
「皆様、目をお開けください。今、誓いの言葉を……」
私の異変に気が付いたのか、高見さんが動いて、牧師様の言葉が止まった。恐らく、右手で何かサインを送ったのだろう。
「……っ」
すみません、と言おうとしたけれど、声にならなかった。こんな顔じゃ、本当に高見さんに見せられないし、このままじゃ式を続けられない。どうにか、泣き止まないと……。
そう思ったときだった。
「泣くな、俺が物凄く悪いことをしているみたいだろう?」
禅さんの声がした。
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