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ハッとして、自然と涙が止まる。後ろの扉は開いていない。それなのに、とても近くから声がした。
――隣……?
恐る恐る、顔を上げて横を見てみる。
「……禅……さん、なんで……?」
純白のベールの向こう側に居たのは、私が本当に愛する人だった。ずっと私の横に居たのは高見さんじゃなくて、禅さんだったんだ。まさか、彼が白いタキシードを着ているなんて……。
「車の修理費を高い利子付きで請求しにきた」
こんなときに、真顔で禅さんがさらっと言った。
「へ……?」
「冗談だ。お前が笑うと思った」
ふっ、と笑う顔がとても懐かしくて、また泣きそうになる。
――禅さんが、冗談を……。
「いつ気が付くのかと思ったが、脳味噌まで貧相なのは変わらないみたいだな」
変わらないのは、あなたも一緒だ。喋り方、表情、雰囲気……すべて、一ヶ月前と変わっていない。
「すみません、続けてください」
私が何も言い返せないでいると、禅さんが牧師様にそう言った。
「――今、誓いの言葉をお願いします。では、新郎から」
牧師様がにこやかに微笑み、式を再開する。
誓いの言葉は元々伝えられていて、それを自分で読むスタイルなのだけれど、禅さんは覚えてきたのだろうか? という私の心配はまったく必要がなかった。
「私、霧島禅は駒田都築さん、あなたを生涯の妻とし、健やかなるときも、病めるときも、豊かなときも、貧しいときも、あなたを愛し、そして、命の限り、神の掟に従い真心を尽くし、今、心を明け渡すことを誓います」
私の手を取って、禅さんはハッキリと宣言した。
――あれ? これ、ちょっとだけ貰っていた言葉と違う。禅さんが、最後の文を付け足してる。
「では、次に新婦」
牧師様が私を見ている。慌てて、言葉を述べなければと思った。
「私、駒田都築は霧島禅さん、あなたを生涯の――」
でも、誓いの言葉の途中で、口を噤んでしまう。このまま、続けて良いのだろうか? もしかして、結婚するだけで、あとで「一緒に居られない」とか言われるのでは?
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