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◆ ◆ ◆
教会の鐘が鳴っている。禅さんと一緒に大きく開かれた扉から外に出ると、白いバラの花びらが両側から降ってきた。
「都築ちゃん、おめでとう! やったー、可愛い妹だー!」
「梓さん!」
誰も来賓は居ないと思っていたのに、ピンク色のドレスでしっかりとおめかしをした梓さんが私をぎゅっと抱き締めてきた。
「梓さん、ありがとうございます」
私にお姉さんができた。梓さんはとても優しくて強い。そんなお姉さんができて、私も本当に嬉しい。
「あーあ、いつの間にか、白と黒が入れ替わっちゃったなぁ」
反対側から声が聞こえて、梓さんに抱き着かれながら視線を移してみると、そこには黒いタキシードを着た高見さんが立っていた。空気を察した梓さんがそろりと私から離れる。
「高見さん、本当にごめんなさい」
真っ正面に立って、私は高見さんに深々と頭を下げた。いくら謝ったって、高見さんの受けた傷は消えないだろうし、私が酷いことをしたことに変わりはない。
「ははっ、良いんだよ」
高見さんが爽やかに笑うものだから、私は謝っている最中に頭を上げてしまった。
「誰かの平和を守るのが、おまわりさんの役目だからさ。幸せにね、都築ちゃん」
格好良く敬礼をしながら、高見さんは優しい顔で微笑んだ。
「荘吾―、そう落ち込まないの。お姉さんと二次会行こう」
そんな高見さんに梓さんが絡んでいく。
「いや、梓先輩、まだ一次会も始まってないんですけど」
「まあまあ、良いから、ほら行くよ。あと、先輩って呼ばないの。――じゃあ、またね、都築ちゃん」
私が何かを言う前に、疾風の如く、梓さんは高見さんを連れ去ってしまった。
「何しに来たんだ、あいつら」
二人が去っていった方を見て、禅さんが不機嫌そうにボソリと呟いた。
――禅さん、私はその問いには答えられません。色々と申し訳なくて。
「若! 駒田都築! おめでとうございます!」
誰も居なくなったタイミングを見計らったように、高そうな一眼レフを持った流川さんがこちらに駆けてきた。
「流川さん、その……フルネームで呼ぶのやめてもらえませんか?」
そろそろと控え目にお願いしてみる。私はこれから駒田じゃなくなるわけだし、なんだか変だ。
「それ以外になんて呼ぶんだ?」
私と禅さんの写真を撮りながら、流川さんが困ったように言う。
「流川さんはお母さんみたいなので、呼び捨てでも良いです」
「そんなことをしたら、若に殺されるだろう?」
そう言う流川さんは本当に怯えているようだった。私の隣で、禅さんが黙って目を光らせているからだろう。
「うーむ……、なら、お嬢というのはどうだ?」
「じゃあ、お嬢様で」
揶揄うように、私はすぐに返した。
「こら、ふざけるんじゃない」
「ふふっ、やっぱり、お母さんみたい」
「揶揄うな」
私が笑うと、流川さんも笑顔になった。
「流川、さっさと運転しろ」
怒りはしなかったけれど、禅さんが呆れたように離れた場所に停まっている車を指差す。
「かしこまりました」
急にシャキッとした流川さんが、先に車に走っていった。
「連れて行きたい場所がある」
「あの、着替えは……?」
「あとで流川に回収させる」
「え、あ、わわっ、ぜ、禅さん……!?」
突然、ふわっと身体が浮いて、私は禅さんにお姫様抱っこをされていた。
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