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波の音と潮の匂いがする。それと、微かな南国のような香り……。
「目隠しを取っても良いぞ?」
真後ろから禅さんの声がする。
車に乗った瞬間、私は禅さんに黒い目隠しをされた。そして、今、私はそれを自分で外していく。
「……綺麗……」
目の前に広がる光景に感動して、上手く言葉が出なかった。
大きな青い空、水色の海、それとヤシの木などの南国植物。リゾートホテルの一室なのだろうけれど、まるで外国に来たような錯覚に陥る。
「わぁ、プールと露天風呂! それにハンモックもある!」
部屋の中や外を見て回っているうちに、どんどんテンションが上がって、結婚式のドレスのままで、まるで小さな子供のようにはしゃいでしまう。
「お前との大切な時間を誰にも邪魔されないために、このリゾート地ごと貸し切りにした」
プールの横から海を眺めていると、禅さんに後ろからぎゅっと抱き締められた。
貸し切ってしまうなんてやり過ぎだと思ったけれど、他に思うことがあって、私の口はそちらの言葉を呟いた。
「私たち、本当にずっと一緒に居られるんですか……?」
禅さんの言い方は、いつも最後みたいな雰囲気を纏っている。私の頭には最後の大切な時間と捉えられてしまう。
「ああ、そうだ」
近くから静かな声音が答えた。
「でも、どうしてですか? 笹塚真野はどうなったんです? 蓮葉組は? ――わっ」
私が禅さんを質問責めにしようとした瞬間、くるりと視界が回って、私は彼と向き合っていた。
「こんなときに他の人間の名前を出すな」
ジッと私の瞳を見つめて禅さんが言う。
「でも、だって……、だって、ハッキリさせてもらえないと、もう私、堪えられないんです」
疑わないって決めたけど、ちゃんと説明はしてもらいたい。何があって、どうして一緒に居られることになったのか。
私は、もう悲しみに堪えられない。生きていたい理由が見つかってしまったから。
「――全部、お前のおかげだ」
すっと伸びてきた大きな右手が私の頬に触れた。
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