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「私、の?」
どんな話をされるのか、少し不安になって、彼の手に自分の手を重ねる。こんな不安さえなければ、素直にこの手に頬を摺り寄せることが出来るのに。
「お前が俺と組を守った。笹塚真野は生きているが、もう襲撃に来ることは一生叶わないだろう。あいつはお前を殺したあとに回収しようとしていたんだろうが、ドライブレコーダーに記録されていた映像から、笹塚真野が逮捕され、芋づる式に蓮葉組へガサ入れが実施された。元々衰退していたあの組に再起はほとんど不可能だ」
私と視線を合わせたまま、禅さんが静かに告げる。でも、私の不安はまだ拭えない。
「なら、どうして、すぐに私に会いに来てくれなかったんですか?」
一緒に居られることが分かったのなら、私に記憶が無くてもすぐに会いに来て、必死に記憶を取り戻そうとしてくれれば良かったのに。きっと、あなたの声を聞けば、私だって……。
「笹塚真野の映像から俺も疑われたからだ。約一ヶ月、調査をされていた。徹底的に対策をし続けてきたんだ。俺が裏社会の人間だと、証拠なんて出てくるわけがない。だが、調査が思ったより長引いた。だから、調査をしている間に荘吾と話をして、一ヶ月後、お前の記憶が戻らなかったら、念のためにそのまま結婚してくれと言ったんだ」
禅さんの答えを聞いて私は我儘だったな、と思う。でも、禅さんも我儘だった。私を勝手に諦めようとするなんて。
「高見さんは、私が記憶を取り戻したことに気が付いたんですね……」
私が隠そうとした嘘に気が付いて、こっそりと禅さんに伝えていたんだ。
「あいつは警察官だからな。すぐに人を怪しむ」
「すごいなぁ……高見さんは……」
しみじみと、そう思ってしまう。本当に申し訳ないことをした、とも。
「もう説明は良いか?」
「え? ……んっ」
急に禅さんが少し不機嫌になって、私の唇を奪ってきた。それは一瞬で終わってしまったけれど、今度は真正面からぎゅっと抱き締められる。
「式のすぐ後にリゾート地に泊まりに行くなんて下心が見え見えだと流川に言われたが、それの何がいけない? 俺は十分我慢したと思うんだが?」
耳に吹き込まれた禅さんの声はとても熱い気がした。ドキドキと鳴っている心臓の音が、自分のものなのか、禅さんのものなのか分からなくなる。
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