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◆ ◆ ◆
「禅さん、あの指輪、どこにやってしまったんですか?」
お揃いのホテルのパジャマを着て、ベッドヘッドに寄り掛かる禅さんに背中を預けながら、私はボヤいた。ちょっとおしゃべりになるのは、さっきまでのここでの行為を自分の頭に誤魔化そうとしているのだ、多分。
「もう要らないだろう。お前が何度も捨てるくらいだ」
同じくらい禅さんがボヤいた。そんなに私が何度も指輪を捨てるのがショックだったのだろうか?
「さ、最近になって、ちゃんと愛着が湧いてきていたんですよ。それに最後は私が捨てたんじゃないです」
取り繕ったような説明になってしまったけれど、気が付いたら失くなっていたのだから、私の所為ではないはずだ。
「はあ……、渡したとして、どこに着けるんだ? この指輪の上か?」
後ろから伸びてきた大きな手が私の左手を掴んで、銀色の指輪が嵌まった薬指をまじまじと見る。
「いえ、母のネックレスに一緒に通したくて」
――ネックレスも指輪も、もう失くしたくないから。
右手で自分の首元から母の形見を取り出して、微笑む。
「そうか……」
納得したのか、禅さんの手が引っ込んでいく。そして、瞬時にまたその手が私の元に戻ってきた。そこには、あのサファイアの指輪が乗っていた。
「え、禅さん魔法使いですか?」
ビックリして、私はそんなことを言ってしまった。だって、まさか、今持っているとは想わなくて。
「馬鹿か。お前がこれのことを聞いてくるだろうと予想していただけだ」
指輪を持ったまま、禅さんが鼻で笑った。
「分かってますもん……」
そんな言い方するんだったら拗ねてやるんだから、と私はずるずると下に下がった。それに対応して、禅さんが胡座になり、膝枕のように私の頭がフィットする。顔が見えて、ちょっと恥ずかしいけれど、これはこれで好き、かも。
「少し、それを貸せ」
私が拗ねていることなんてお構いなしで、禅さんが私の首元を指差した。
「これですか?」
「そうだ」
「今は取れないです」
拗ねているからと首がフィットしているから取れない。
「なら、動くな」
感情を表わすのは不器用なくせに、手元は器用で、禅さんの両手が鎖を上手く回してネックレスを取り去っていく。
ジッと黙ったまま、禅さんの行動を目で追っていると、彼は鎖に指輪を通したあと、少し不思議なことをした。ネックレスを自分の額に近付けるようにして、暫く目を閉じていたのだ。
「何したんですか?」
彼が目を開けた瞬間、気になって尋ねてみる。
「お前の母親に約束したんだ。俺が都築を一生守るって」
「禅さん……」
拗ねていた自分が馬鹿らしく思えて、私は身体を起こして正面から彼に向き合った。そっと手が伸びてきて、私の首にネックレスを戻していく。改めて見ると、その青はとても鮮やかで綺麗だった。
また、禅さんのことをぎゅっとしたくて、ぎゅっとされたくてウズウズしてくる。それなのに彼は私の目を見つめて「それで、お前を守るために俺の提案を一つ聞いてくれないか?」と言った。
――へ?
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