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「へぇ」
スマホの画面を見つめて、私は呟いた。時間潰しのために開いたニュースの一覧に、どこかの貿易会社の若社長が国内の大きな会社を次々と買収している、という写真付きのものがあったからだ。
ニュース自体には別に興味は無く、だからこその「へぇ」だったのだが、こういう人間は一体、何が楽しくて生きているのだろうと思う。
ニュースの下にあるコメントで、たくさんの人間に若社長の男がイケメンなことを褒められているのが気に食わなくて、それを妬んで死んでほしいと思っているわけではない。
ただ、画面の中で爽やかに笑うイケメンが何を目標に生きているのかが気になったのだ。日々、何も考えず、生きている理由が分からない私のために。
「さて、行きますか」
名前くらいは覚えておいてやろう、と心の中では偉そうに言いながら、ニュースに出ていた若社長の霧島禅という名前を頭の隅に保存して、私はスマホを自分のスラックスのポケットに仕舞って夜の街を歩き出した。
煌びやかなネオン街の中、適当なシャツに地味なベスト、そして、シンプルな黒いスラックスを身に纏ったショートカットの私は、男と間違えてキャバクラに誘おうとしてくるキャッチの男たちを躱しながら今夜の目的地に向かった。
そこは『雅』という名前のキャバクラの近くで、これから私の仕事が始まる。
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