幸の薄さを胸で判断しないでください

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「へ? ちょ、ちょっと?」   ずしりと彼の全体重が私に掛かって、とても苦しい。大きな右手は私の胸を軽く包んだままだし、冗談でしょう? と思ってしまう。  倒れたのかと少しは心配したけれど、近くから静かな寝息が聞こえてホッとした。こんな状態で眠れるこの人が本当に理解出来ないけれど、身体を少しずらして見た彼の顔はとても疲れているように見えた。  だから、動かせなくなってしまった。目一杯力を込めれば退かせられるはずなのに……。  それにしても、訳が分からない。「俺を好きになればいい」だの「俺を好きになるな」だの、モテるイケメンは自由で良い。 「もう、どっちなのよ……」  こうして、冒頭に戻るわけだ。結局、裏の顔も分からなくて、私を連れてきた理由もよく分からないし、分からないことばっかりで、どうしてこうなってしまったのか、と考えるけれど、答えはまったく見つからない。  ちらっと彼の寝顔を見てみる。疲れた顔はしているけれど、何も言わないで、ただそこに居る分には本当に整った顔をしていて、モテそうだなと思う。私は何とも思わないけれど、寧ろ、また身体を弄ばれて怒りたい気分なんですけど。
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