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「その通りです。ですから、若、何があったのか説明してもらえますか?」
ごほんっ、とわざとらしく軽く咳払いをして男性が言う。今さらだけど、この人の若呼びがとても気になった。でも、私には彼と彼の会話に割り込む勇気がない。目だけで交互に二人を見る。
「その話は後だ。もう少し寝る。お前は電気を消して出て行け。それと、あの運転手は使えない。始末しておけ」
不機嫌そうに霧島禅が言う。一瞬で空気がピリついた気がした。
「ですが、若」
「いいから、行け」
「はい、失礼します」
ピリついた空気に狼狽えることなく、男性は冷静な態度で頭を下げ、部屋から出て行った。と、同時に電気が静かに消えていく。パッと消えないところがお金持ちの家という感じがした。
それより、始末……って、殺すってこと? もしかして、私も殺されちゃう……? 死ぬのは怖くないけど、どうしてか、まだ死にたくはない。逃げたい……、逃げたい、逃げたい。
気が付くと身体が無意識に彼の腕から逃げ出して、ベッドから降りようとしていた。
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