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道の端に停められていた黒い高級車を確認して、おもむろにその運転席に乗り込む。後部座席には暗い色のスーツを着て、眠ってしまっている男性が一人。
私の仕事は飲酒をした持ち主の代わりに車を運転して家まで帰る運転代行というものだ。だから、後ろで眠ってしまっている人は酔い潰れていても別におかしくはない。実際、前にも何回かはあった。
「今回担当させていただきます。駒田都築です。よろしくお願いします」
一応、声に出してみたけれど、男性が目覚める様子はない。仕方なく、そのまま運転を開始することにした。
大丈夫、車種だってナンバーだって確認したし、鍵だってここに置いてあるし、エンジンだって掛かったままだし。
そう思いながら順調に運転して二十分くらいで前もって教えられていた依頼主の家の駐車場に到着した。
さすが、高級車に乗ってる人の家はスケールが違うなと思う。大きな海外風の家だ。家について、あんまり詳しくないけど。
「お客さん、着きましたよ?」
運転席から一回声を掛ける。けれど、返事も反応も無い。こういう時は、なんだか厄介なお客さんを乗せてしまったタクシーの運転手さんの気持ちが分かる気がする。この、ずっと微かに香っているタバコの臭いも好きじゃない。
どうせ帰りは自分もタクシーだ、と思いながら車から降りて、後部座席の扉を開けながらもう一回……
「すみま――えっ?」
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