幸の薄さを胸で判断しないでください

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 ――眉間に寄った皺からすると、寝起きで機嫌が悪いとか? 「あの……」 「こっちに来い」  何も言葉を思い付いていないままで口を開いたら、素っ気なく声を遮られて、リビングの方についてくるように指示された。スーツのままの彼の後を追って寝室から出ると、思わぬ出会いがあった。 「あ、猫ちゃんだ」  昨日は静かで全然気が付かなかったけれど、黒い絨毯の上でコロンコロンと転がる白い猫が居て、私は思わず駆け寄ってしまった。 「かわいいー」  その場にしゃがみ込んで頭を撫でる。凄く人懐っこい子だ。 「猫を飼えば、よく眠れるようになると思ったんだが……」  怒られるかと思っていたけれど、私の横に立った彼は聞いてもいないのに、ぼそぼそとそんなことを言った。  ――あ、やっぱりこの人、不眠症なんだ?
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