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「この子に名前はあるんですか?」
あまりに可愛らしい猫に意識を持っていかれていて、私はそんなことを無意識に尋ねていた。気が付いたのは全て言葉を発したあとで、暢気な自分を馬鹿だなぁと思った。
「名前はない」
「え?」
まさか答えが返ってくるとは思わなくて、間抜けな声で聞き返してしまった。
「名前はない」
横を見上げた先にある不機嫌そうな顔が繰り返す。
「じゃあ……、白玉。ほら、白玉、こっちにおいで」
名前が無かったら呼べないと思って試しに名付けてみた。だって、彼は「名前はない」しか言わないし。
「おい、勝手に俺の猫に名前を付けるな。大福、こっちに来い大福」
私の横にしゃがみ込んで、彼が白玉に右手を伸ばす。私のネーミングセンスを奪おうだなんて卑怯だ。
「さっき名前はないって言ったじゃないですか」
「今付けた。お前にも名前を付けるか?」
私が文句を言うと、意地の悪い笑みがこちらに右手を差し出してきた。まるで猫と同じ扱いをされているみたいだ。どうして、この人はこんなに意地悪なんだろう?
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