幸の薄さを胸で判断しないでください

22/40

1494人が本棚に入れています
本棚に追加
/197ページ
「私はあなたに飼われるつもりはありません。だから、名前も要りません」  一度車の中で名乗ってあげたと思うけど、もう絶対あなたなんかに名乗ったりしないんだから。呼ばれる筋合いとかないし。  差し出された右手をムッとした顔で無視して白玉の頭を撫でようとしたときだった。 「おはようございます、若、何をやってるんですか? ――妹子、朝ご飯ですよ」  突然、昨夜と違って静かに玄関の方から昨日の男性が現れた。手には猫缶を持っている。 「お前も俺の猫に勝手に名前を……いもこってなんだ?」 「小野妹子の妹子です。それに若はまったく世話をしないではないですか。可哀想ですよ」  メスなのに、小野妹子……可哀想なのは同じじゃないの? と心の中でツッコミを入れながら、私は猫缶をもらう“妹子”の姿を見つめていた。 「知るか」  その一言で片付ける霧島禅に「あなたの心に愛はないのか」とぶつけたくなるけれど、そこも黙っておく。 「それより流川、こいつに必要な物を全部揃えてくれ」 「……いっ」  まるで猫の首でも掴むように俺様主人が私の首根っこを掴んで立ち上がらせた。 「部屋ですか?」
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1494人が本棚に入れています
本棚に追加