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「こいつに誘拐された」
「はぁ?」
「いや、誘拐じゃなくて、車を間違えてしまったというか……」
いつになったら解放されるのだろうか、と思いながらも二人の会話に口を挟みつつ仕方なく紙に必要な物を書いていく。
「誘拐されて、どうして、この女を連れてきたんですか?」
呆れたように言いながら流川さんが私のことをチラッと見た。
「いや、だから誘拐じゃ……」
「俺の正体を知られた」
「いえ、知ってないです。何も知らないです」
「いいや、知ってる」
否定する私の言葉を、若様はことごとく覆してくる。どうして、そんなに頑ななのか。
「どっちなんですか?」
私と霧島禅を交互に見て、流川さんが困ったような顔をする。瞬間、私と横に立つ彼が同時に口を開いた。
「知らないです」
「知ってる」
――意地でも私を帰さないつもりだ、この人。
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