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「若の秘密を知ったから飼うことに決めた、と?」
「ああ、それに俺の目の前で仕事をクビになったからな、こいつ」
そう言いながら若様はくくっと意地の悪い笑いを堪えるのに必死のようだ。
「ちょっと!」
「報連相だ」
私が吠えれば、急に真面目な顔に変わる。
――だから、どこを報告してるのよ!
「紙とペンを寄越せ」
まだ書いている途中だというのに、彼は私の手から紙を奪って端の方に数字を書いた。
「さ、サイズは何でした?」
この状況でおかしいかもしれないが、自分でも少し気になっていた、というのが黙って測られていた理由だったりもする。紙に書き込まれた数字が見えなくて、思わず尋ねる私が居た。
「極貧乳」
「……くっ」
分かっていたけれど、真顔で言われると心にグサッときた。
「ほら、流川行ってこい」
「あ、はい」
小さく折り畳れたメモ紙が乱暴に投げられ、宙を舞い、流川さんの手元に辿り着く。
「流川」
「はい」
「お前一人で行けよ?」
「い、行けますよ。女性物の下着屋さんなんて」
男性一人で入りたくない店第一位に行かされる流川さんが少し不憫に思えた。ただ、霧島禅という人間がどんな生き物なのか、これで分かってしまった。いや、本当はずっと分かっていた。この人間は、すっごくすっごく意地悪なのだ。
人が苦しむのを見たり、人の不幸を喜ぶような極悪人。
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