幸の薄さを胸で判断しないでください

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 ――いやいや! 気にしないんだから!  勢い良く皮を剥いてパクパクと食らってやった。そして、すぐに皮を生ゴミ用のBOXに捨ててやった。こんなことをいちいち気にしていたら先に餓死してしまうもの。  ふんっとドヤ顔をゴミ箱に向けて、ふと、ブラのホックを直していなかったことに気が付いて慌てて留め直した。 「仕事に行ってくるから逃げるなよ?」 「っ!」  突然の背後からの声に心臓と身体が小さく跳ねた。  私はどれほど冷蔵庫の前でバナナという魔物と戦っていたのだろうか、禅さんがちゃんと支度をし終えて私の背後に立っていた。少し乱れていた髪もしっかり直されている。  不覚にも、黙っていれば凄く格好良いのに……と思ってしまった。 「……仕事?」  心を整えて、聞き返してみる。 「ああ。一応、社長だからな」  雰囲気は面倒臭そうだけれど、彼は答えてくれた。 「どうしてヤクザと掛け持ちしてるんですか?」  すっかり調子に乗ってしまった。言ってしまってから、しまったな、と思った。こんなこと答えてくれるはずないし、寧ろ「無駄なことを聞くな」と怒られて殴られるかもしれない。この人はヤクザなのだから。
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