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「はぁ……今の時代、ヤクザも楽じゃないんだよ。下の奴らは稼ぎが無いと悪さをするから、皆、給料制だしな」
意外だった。深く溜息を吐いて、彼は何ともないように話し始めた。
「給料制……?」
私が彼の言葉を呟けば、彼はまた私に言葉をくれた。
「俺は組の大黒柱ってとこか。俺が潰れたら組も潰れる。だから、俺の正体を表の人間に気付かれるわけにはいかないんだよ。お前も外には出せない」
こんなに話をしてくれるとは思わなかった。
ふと、無意識に近い感覚で「この人は大家族のお父さんなんだ」と私は思っていた。あんなに横暴で意地悪で、処女の私を虐めて楽しんでいたのに。
そして、私の中に一つの光が生まれた。
逆に考えれば、この人の信用を勝ち取ることが出来れば、私はきっと解放される。まだ希望があるのだ。
近いうちに信用のテストがどうとかと言っていたし、だから、それまでに少しでも禅さんからの信用度を上げて、どんなテストか知らないけど、そんなテスト飛び級して、早く解放されてみせる。
生きていたい理由はまだ分からない。でも、まだ死にたくはない。
「もういいか? 行ってくる」
腕時計に視線を落として禅さんが私の顔を見た。
「……い、いってらっしゃい、ませ」
どう返せばいいのか分からなくて、取り敢えず、慣れない言葉で送り出す。
「ああ、そうだ」
突然、玄関に向かう途中で彼の足がピタリと止まった。
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