般若の貴公子は敵の船に現れる

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 海の匂いがする。夜空の下、対岸で光る工場のライトたちがとても綺麗だ。デートで見られたなら、きっと良い雰囲気になるだろう。  それなのに、私は一体、何をさせられているのだろうか。デートでないことは確かだ。 『駒田都築、聞こえるか?』  右耳に嵌めたヘッドセットから俺様若様の声が聞こえる。緊張と少しの苛立ちから一度、無視をしてみた。 『聞こえているのは分かってる。俺が殺すまで死ぬなよ?』  暗い海を見つめながら「この人は一体、何を言っているのだろう」と思う。そして、その言葉も無視した。  私は今、とある港に停泊している豪華客船『エンシャンス・リリー号』の甲板に立っている。しかも、この船で働らくウェイターの格好をして、だ。  手が震える。今から私は下手をすると死ぬことになるのだ。禅さんの信用を勝ち取るか、死か。  どうして、こんなことになったのか、それは数時間前に遡る……。
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