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私の日用品を持って戻ってくると思っていた流川さんは結局、夕方まで部屋に戻って来ず、戻って来たときには禅さんと一緒だった。
「若、何をそんなに苛立つことがあるんですか? いつもの若らしくない」
「流川、少し黙ってろ」
玄関から入ってくるなり、二人がそんな会話をしているのが聞こえた。なんだか雰囲気が良くないので、巻き込まれないように私は妹子とカーペットの上に無気力に転がる作戦に出た。
「ああ!」
部屋に入った瞬間、流川さんが大きな声を上げた。何だろう? とちょっとだけ顔を浮かせて様子を見てみる。
「若、タバコを捨てたんですか!?」
どうやら、ステンレスのゴミ箱の中に無残に捨てられているタバコたちを発見したらしい。
「ああ」
私の位置からは見えないが、「それがどうした?」という禅さんの声が聞こえる。
「どういう心境の変化ですか! 猫のためにと私が言ってもやめなかったのに! さては、これがそのイライラの原因でしょう!?」
――やっぱり、猫のためじゃなかったんだ……。
この状況を新聞の見出し風に言うと『部下、せっかく上司が誤魔化した点を曝け出す』だ。
「やかましいな、黙ってこれを捨ててこい」
「ですが、若……!」
流川さんがゴミ箱を押し付けられて、部屋から追い出されていくのが見えた。一悶着あって、一瞬、静かになる。しかし、その静寂もすぐに終わりを迎えた。
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