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一瞬、時が止まった気がした。珍しく妹子が「にゃー」と小さく鳴いて、再び時が動き出す。
「安眠枕が寄って来なくなると困る」
頼にもよって、そんなことを言うために真剣な表情になるなんて……すっごくムカつく!
「なんですか、それ! 私、あなたのこと嫌いです!」
苛立ちを隠せず、私は掴まれた両手を勢い良く振り解いた。
この人は、他の人間のことを物だとしか思っていないに違いない。少しだけ、ほんの少しだけ、優しさで言ってくれたんだと思って、期待して、後悔した。そうだった、この人はこういう人だった。意地悪な人。
「俺はちゃんと理由を言ったぞ? お前の理由は何なんだ?」
振り解かれた両腕を胸の前で組んで、偉そうに俺様が言う。
「理由?」
「嫌いな理由だ」
ここは正直に答えて良いのだろうか? あなたを嫌いな理由なんてたくさんある。あなたを好きになる人の気持ちが分からない。あなたは最低最悪です。だから、言ってやる。言ってやるわよ。
「人のことを物扱いするところとか、人のファーストキスを」
「違う、タバコが嫌いな理由だ」
つらつらと彼を嫌いな理由を並べてやろうと思ったら、すぐに遮られた。
「え……っ」
――タバコの話だったの?
勘違いして自分から恥を晒してしまい、顔を熱くしている私を見ながら「初めてだったのか、通りで下手くそなわけだ」と彼が小さく付け足したのが聞こえた。少しは申し訳無いと思う心は無いのだろうか? 一箱何百円のタバコと一緒にされたくない。もっと貴重なものなのだから。
「答えろ、駒田都築」
彼の目が言っている。「この俺様がお前の我儘を聞いてやっているのだから」と。
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