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「若が謝ったんですか?」
「え?」
流川さんの言っている意味が分からなくて、思わず間抜けな声を出してしまう。すると、彼はビクビクしながら続けた。
「若が仕事先の客以外で人に謝罪したところを初めて見ました」
喜ぶというより、怖がっているように見えるのは私の気の所為だろうか?
「そんな言い方をするな、まるで俺に心が無いみたいだろう?」
『間違ってはいない』という言葉が私と、恐らく流川さんの頭の中でリンクした。
「そ、そうですね。すみません」
可哀想に、見た目王子様が威圧的な上司に無理矢理謝罪をさせられている。
「それより、流川、戻って来たのならこいつにお前が持ってきた物を渡せ」
私から離れて、禅さんが流川さんに指示を出す。また言葉がトゲトゲとして、さっきのはやっぱり嘘なんだな、と思った。
「は、はい」と返事をする流川さんが、重たそうな黒い旅行用鞄みたいな物を私のところに持ってきてくれたのだが、どうしたらいいのか、まったく分からない。
「お前。風呂に入って準備をしろ」
「え」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。それを感じ取ったのか流川さんが「若、何を考えているんですか?」と言って、怪訝そうな顔をしている。
「こいつを敵の船に送り込む」
真顔で言ってのける若様に流川さんと私の表情は奇跡的にまたリンクして、強ばった。
――朝に言ってたこと、忘れてなかったんだ……。
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