般若の貴公子は敵の船に現れる

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 てっきり私を脅かすためだけの冗談だと思っていたが、どうやら違うらしい。 「もしかして、『エンシャンス・リリー号』ですか?」  流川さんの口から聞き慣れない外国人の名前が出た。いや、船の名前だ。 「ああ、俺のシマに停泊してるからな。こいつに中を探らせる」 「若、敵と言っても、ただの客船ですよ?」  横で黙って聞いてはいるけれど、二人の話している内容がまったく理解出来ない。シマっていうのは、禅さんのテリトリーってことなんだろうけど。 「ただの客船だから良いんだ。何も無ければ無いで良い。まあ、何か有ったらこいつは死ぬだろうが」 「確かに」  ――へ? 死、ぬ?  私がどきりとしていると、当然のことのように会話を終えて、禅さんがこちらを見た。 「そういうことだ。駒田都築、仕事をしてこい」
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