般若の貴公子は敵の船に現れる

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 ……こうして冒頭に戻るのだが、自分でただの客船だ、と言っておきながら若様は私のことを酷く脅かしてくる。 『聞こえているのは分かってる。俺が殺すまで死ぬなよ?』  この言葉は脅しだ。この船に“隠し事”があった場合、私は死ぬ。しかし、私の俺様主人はあわよくば、それが見つかれば良いと思っている。つまり、やっぱり私は物でしかないのだ。 『それと、朝も言ったが、俺は表の人間にヤクザの顔を知られるわけにはいかない。その船には一般人が多く乗っている。だから、何か問題が起こった場合、俺はお前を助けに行くことは出来ない。それだけは理解しろ』  ヘッドセット越しに耳元で禅さんがつらつらと最終注意事項を述べていった。 「……分かってます」  この人は大黒柱。私と家族、どちらが大切か、それは比べなくても最初から明白だ。 「行ってきます」  明るい船上を向き直って、ゆっくりと歩き出す。  やることは分かっている。ひと通り船の中を見て、何か怪しい物が無いか確認して、船から降りる。ただ、それだけだ。私は、ここの従業員。ただ、それだけだ。 『待て』  こっちは決心したというのに、禅さんの声が私を止めた。
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