般若の貴公子は敵の船に現れる

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「なんですか?」  ムッとした顔で問う。決心が揺らいでしまうから、もう声を掛けないでもらいたい。 『バックヤードに何か無いか確認して、すぐに戻ってこい』 「分かってます」  分かっている、と答えたけれど、私は船全体を見るつもりだ。私は試されている。だから、絶対に信用を勝ち取ってみせる。人のことを物だとしか思わない最低男とは早くおさらばするんだ。こんな嘘吐きとは、早く……。 「行ってきます」  再び歩き出して、私はウェイターとして、船内で開かれているパーティーの会場に向かった。会場には煌びやかに着飾ったお金持ちの色々な人種の人間たちが詰まっていた。パーティーに怪しいところはなく、この豪華客船が港に無事に着いたことを祝うためのものらしい。  途中でトレーに乗ったシャンパンをゲットして、普通にお客様に提供した。前にこういう関係の仕事をしたことがあって、難なく熟せた。シャンパンが無くなり、補充するためにバックヤードに向かう。  パッと見、変な人間も怪しい物も見当たらない。厨房も覗いたけれど、何も無さそうだ。皆、忙しそうに働いていて、私を邪魔そうにチラッと見る視線がたまに飛んでくる。 「すみません」  そう言いながら厨房を抜けて、ここからが緊張する。客室までは鍵が掛かっていて見れないが、ボイラー室なんかは扉の窓から簡単に中を覗くことが出来る。  緊張の中、確認するとボイラー室には何も無かった。今の船はオートなのか、ボイラーのある船の底の方には誰も居なかったのだ。 「禅さん?」  陰に隠れて耳元に居るはずの主人に呼び掛ける。
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