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『おい、聞こえるか?』
禅さんの声だ。まるで生きている時間が違うみたいに、とても落ち着いて聞こえる。
「禅さ、ん」
声が震えた。
『だから早く戻ってこいと言っただろう?』
呆れたように禅さんが言う。たしかに禅さんは私にバックヤードだけ見て戻ってこい、と言った。私が言われたことを聞かなかったのだ。
「禅さん、助けてください。このままじゃ栄さんが……」
『駒田都築、俺は表の人間に裏の正体を知られるわけにはいかない。それは分かってるよな?』
耳元で淡々と言葉が紡がれていく。
「はい、分かっています」
分かっている。大黒柱だから、お父さんだから、禅さんは助けに来てくれない。やっぱり、父親って最低……。
『なら良い』
急にプツン、と電話が切れた。
「そっちに居たか!?」
“敵”の声が徐々に近付いてくる。そこのコンテナを曲がって来られたら、私たちは……
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