般若の貴公子は敵の船に現れる

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「ぐぁ!」 「がはっ!」 「なんだ!? どうし……」  遠くの方から声が一つずつ消えていく。誰かが、こっちに向かって走ってくる音が聞こえて、凄く、凄く怖かったけれど私は栄さんを庇うように前に立った。 「見つけたぞ!」  走ってきたのは黒いスーツを着て銃を持った“敵”だった。奇跡的に外れたけれど、こちらに向かって銃を撃ってきたから、すぐにそうだと分かったのだ。 「駒田さん、逃げてください!」  栄さんに言われても、そんなに簡単に動けるものではない。だって私は、ただの一般人なのだから。 「む、り……」  無意識にそう呟いたときだった。急に目の前の男がコンテナの壁に叩きつけられていた。その後頭部を掴んでいたのは濃紺のスーツを着た…… 「般若……」  鬼だった。正しく言えば、褐色の般若の面を被った人間だが、私には分かっていた。――この般若は、禅さんだ、と。
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