1494人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの……」
整った顔が私のことを見下ろしている。ここは謝罪しなければいけないところだろうか? 謝罪の言葉を口にすれば、この人は私のことを許してくれるだろうか?
「まあ、罰は貯蓄しておくか」
「え?」
禅さんが意外にもあっさりと私を解放するものだから、気の抜けた声を出してしまった。
「なんだ?」
「い、いえ」
怪訝そうな瞳に見つめられて、私は慌てて目を逸らした。
「怪我人を襲う趣味はない。ゆっくり休め」
そう言いながら禅さんは電気を消して私の隣に横になった。
「スーツ、皺になりますよ?」
「元からお前の所為でクリーニング行きだ」
「くっ……」
たしかに、私の所為で禅さんのスーツは皺くちゃだ。
「すみませんでした」
小さく謝罪を口にしたら、大きな手に優しく抱き寄せられた。じんわりと温もりに包まれる。
「あいつの命なんて、お前の足元にも及ばない」
意識が落ちていく中、禅さんがそう呟いた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!