1493人が本棚に入れています
本棚に追加
禅さんのもとに来て三日が経った。既に暇を持て余し、少し遅めに起きて、朝食を作りながらテレビを眺めるのが日課になっていた。
「霧島社長、次に買収する企業の予定はございますか?」
「そうですね、既に決定していますが今はお答え出来かねます」
大きなテレビ画面の中で禅さんがインタビューに答えている。柔らかな笑顔で、誰も傷付かないように配慮された喋り方をしていると感じた。
――私には絶対に見せない顔だ。
「部下の方のお話によると、最近タバコをおやめになったとか」
「はい、周囲の方々のためと自分の健康のために」
とんだ嘘吐きだ。好印象で、会社の株も自分の株も爆上がり? ほんと、猫被りが上手いこと。これを見ている女性陣の八割が、この人に惚れるに違いない。ルックスと物腰の柔らかさに。
でも、確かに、黙っていれば、とても……
「ここに本物が居るというのに、どうしてそんなものを見る必要がある?」
「ひぇっ? 禅さん!」
仕事に行っているものだと思っていたため、急に横から声を掛けられて間抜けな声が出た。危うく持っていた木のへらを床に落とすところだ。
「本物が居るのに、何故だ? こっちを見ろ」
こちらに歩いてきて、禅さんは勝手にコンロの火を消した。そして、私の顎を掴んで自分の方を向くように持ち上げた。なんだか、とても不機嫌そうだ。
「それはラブラブなカップルしかしたらいけない会話です」
漫画とかのラブラブなカップルがする会話です。私たちみたいなお互いを敵みたいに思ってる人間たちはしたらいけないんです。
最初のコメントを投稿しよう!