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「“好きだ。お前を愛してる”――これでいいか?」
これを言えば納得するんだろう? みたいな自信満々な顔で禅さんが言う。どうして、そんなに簡単にその言葉を言ってしまうのだろうか。
「駄目です。心がゼロです」
ちょっとだけ棒読みが緩和された気がするけれど、心から却下させていただきます。
「なんだ? 心がゼロって」
「ご自分で考えてください。あの、私、料理してるんですけど」
あなたが私に優しく笑い掛けてくれるようになったら教えてあげてもいい。
「お前は自分の立場を何か勘違いしているようだな」
「きゃっ」
急に身体を横抱きに抱き上げられ、ソファまで運ばれた。
相変わらず、部屋からは一歩も出してもらえないけれど、敵の船に乗り込んで以来、私は禅さんに少しだけ信用されたようだった。だから、ちょっとだけ調子に乗ってしまったのだけれど、そうだ、権力は今もこの俺様の手にあるのだった。
「お前は俺を誘拐し、大事な取引を台無しにした。さらに俺の目の前でお前は仕事をクビになり、俺がお前を拾ってやったんだ」
ソファに押し倒され、わざわざ一から説明される。“俺”と“お前”をいちいち出してくるのはわざとだ。クビになった、のくだりだけなら「頼んでません」で押し切れるのだが、若様の大事な取引を台無しにした私には選択肢がない。
「……感謝、してます」
めちゃくちゃ恩着せがましいんですけど、仕方がないので言葉だけでも。
「なら黙ってキスくらいさせろ。俺を人間に戻すんだろう? 幸薄貧乳」
至近距離で俺様若様が目を細める。
「それは物語的に違うと思うんですけど、キスで戻るのはお姫様の意識で、んっ……」
私が喋っているというのに、途中で唇を奪われた。
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