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「いつまで、そうやってふてくされているつもりだ?」
ムッとした顔のままキッチンに立つ私に、禅さんが言った。答えようにも、その質問には答えづらい。ふてくされていないとやってられない、くらいの気持ちなのだ。なんたって、私は禅さんに醜態を晒したのだから。
「お前、歳いくつだ?」
いつまで私の隣に居るつもりなのだろうか。それに、そんなにストレートに女性に歳を聞くなんてマナー違反だ。
「……紳士が、女性に歳なんて聞くものじゃないです」
「残念ながら俺は紳士じゃない。どうやら誰かが言うには人間でもないらしい」
私が中くらいの片手鍋を見つめながらぼそりと呟くと、彼が皮肉っぽく返してきた。乱暴を嫌う私が、こんなにも頬を叩きたくなるのだから、彼はある意味天才だ。
「二十、五です」
もうどうにでもなれ、と思ったから答えたのだが、実年齢をスムーズに言えなかったのは、この歳で“色々と初めて”なのが恥ずかしかったからだ。横に居るこの人はきっと、それを面白がるに違いない。
「二十五? その割には――餓鬼くさいな」
「ちょっと、言い方ってものがあるんじゃないんですか?」
予想はしていたけれど、いざ言われると少し傷付く。この人は他人の心を考えたりしないのだろうか? ちゃんと一度、頭の中で言葉を選別しているとは思えない。
「俺は間違ったことは言っていない」
そして、この顔である。俺は間違っていない。俺が言ったことはすべて正しい。偉そうな顔。
「そういう禅さんはいくつなんです?」
恨めしそうに禅さんの顔をジッと見つめてやる。
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