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「お前、また泣かすぞ?」
「っ……」
腰をぐっと引き寄せられて、身体が小さく跳ねる。
「ぜ、ぜぜ、禅さん、朝ご飯食べませんか? あ……、食べないんでしたね」
話を逸らすために食事のことを持ちかけたのだが、この人は朝は会社でコーヒーと決まっているのだと流川さんから聞いたのを忘れていた。それどころか、昼も夜もここでちゃんと食事と呼ばれるものを食べているところを見たことがない。
つまり、この人は私の料理なんて食べない。
「す、すみません、忘れてくだ」
「寄越せ」
「へ?」
私の聞き間違えだろうか? 今、禅さんが私の料理を食べると言ったような気がした。
「食べるんですか?」
「悪いか? お前から誘ったんだろう?」
なんか、その言い方、また語弊があるんですけど。
「今、用意します」
そう言ってから、二人分のお皿に玉子雑炊を分けて、ダイニングテーブルの上にセットした。朝は優しい味の物を食べたかったのだ、私が。
「ど、どうですか?」
元々、前に料理関係のバイトをしていたということもあって、誰かが自分の料理を食べるときには反応が気になってしまう。
「……うまい」
美味しいなら、そんなにムスっとした顔をしなくても良いのに、禅さんはまるで「認めたくない」と言っているみたいだ。駄目なのかな、と思ってしまう。
「お前の願いを一つ聞いてやる」
「はい?」
急に魔法のランプの精霊みたいなことを言われて困惑した。
「だから、たまに飯を寄越せ」
――はいぃぃぃ?
神様、この人を閉じ込める魔法のランプは一体、どこにあるのでしょうか?
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