問題は立て続けに起こるものです

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 彼の言葉はまだまだ止まることを知らない。 「そもそも、お前の願いは矛盾している。近くに居なければ、俺に飯を作れないだろう?」  長い足も再び動き出し、止まることを知らない。また、さらに距離が広がっていく。どうやら、私の答えを聞く気はないらしい。 「別に一緒に住んでいなくても何とかなりません?」  禅さんが偉そうに言ってくるものだから、私は立ち止まったまま聞こえないようにぼそりと文句を言った。視線の少し先には交番が見える。  このまま交番に逃げ込んだら、あの霧島禅……いや、六道禅という人間は警察に捕まるのだろうか? と彼の背中と交番とを交互に見て、考えてしまった。  ――警察って、どこまでいったら守ってくれるんだっけ? 誘拐されて、暴力を振るわれたら? いやいや、でも待って、それなら……禅さんを誘拐して、頬を叩いた私の方が捕まるんじゃ……。  交番をジッと見つめて、行くべきか、行かざるべきか、それを悩んでいたら、急に私に陰が落ちた。 「早くしろ、と言ったよな? 俺をイラつかせるな」 「えっ、あ、え」  いつの間にか禅さんが私の前に立っていて、手を繋がれた。恋人繋ぎなのは、この方がしっかりと指が組まれていて、私が逃げられないからだろう。 「さっさと荷物を片付けて、部屋を引き払え」  歩幅の合わない私を引っ張りながら、禅さんが冷たく言った。 「それじゃあ、私の帰る場所が無くなるじゃないですか」  少し小走りになりながら、口を尖らせる。アパートの部屋は少し汚くて狭いところだけれど、私は隠れ家みたいで気に入っているのだ。 「まだ分かっていないのか? お前は俺に飼われているんだぞ?」 「じゃ、じゃあ、お聞きしますけど、一生飼ってやる、ってお気持ちがあるんですか? もしかしたら、途中で捨てるかもしれないじゃないですか」  今、この人が私を飼っているのは、飼うことに「安眠出来る」というメリットがあるからだ。不眠症が治って、私が居なくても眠れるようになれば、“安眠枕”なんて必要が無くなる。
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