1493人が本棚に入れています
本棚に追加
「それは俺に捨てられたくない、と言っているのか?」
「いや、違っ、違います!」
私は「違います」と自由な片手をぶんぶん振った。
――どうして今、ここに妹子は居ないの! 居たら、フワフワのお腹に顔を埋めて現実逃避がしたかったのに!
確かに私の言い方には少し語弊があった。まるで遠回しに自分から一緒に居てもらいたいと言っているようにも聞こえなくはない。
「私はただ、路頭に迷いたくないだけで、……どうかしました?」
何の弁明だか分からないけれど、必死に禅さんの顔を見ながら話していると、急にピタリと彼の足が止まった。
「おい、お前の住処って、本当にここか?」
不思議そうに思っているような声が隣から聞こえた。
「へ?」
住処って……、と思いながら顔を前に向けると、そこに私の部屋は無かった。無くなっていた、アパートごと。まるでドラゴンでもやってきたかのように焼け跡になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!