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「昨夜あたりに燃えたな、これは」
アパート脇の道から見ただけで禅さんが言った。どうして、そんなにすぐ日にちや時間が分かるのか。
「まさか……」
あなたがやったんじゃ……? という視線を送ると、彼は「俺じゃない」と不機嫌そうな顔をした。
「放火じゃないってことですか?」
「いや、ガソリンの匂いがする。昨夜はここに居なくて良かったな、死ぬところだ」
また俺様のお陰みたいな言い方をする。この人は私に恩を作らせて、それが何個あるのか数えるゲームでもしているのだろうか。
「でも、誰が……あ!」
ふと思い出してしまった。
「心当たりでもあるのか?」
「あ、いえ……えっと」
疑われたことに苛立っているのか、若様が怖い顔をするものだから、私は狼狽えてしまった。
心当たりはある。でも、まさかな、もう一年も経つし、住む場所も仕事も変えたし、そもそもここはアパートだから、私の知っている人間とは限らないわけだし。
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