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「やっと戻って来てくれたんだね、駒田さん」
――あ、そのまさかだったか……。
後ろから声を掛けられて、振り向くと、そこには私の見知った男性が立っていた。
「木村さん」
まずいな、という顔で彼の名前を口にする。
「知り合いか?」
そう言いながら、何故か俺様若様は私の手を一際強く握った。
「一年前まで私、レストランで働いてまして、あの人は、そこの調理師さんです」
木村さんまでは少し距離がある、秘密の話をするように私は禅さんに小声で言った。
「そいつが何なんだ? 給料でも横取りしたのか?」
――この人は、まったく……。全然会話を隠そうとしない。
「いえ、あの、ストーカーをされていまして、あの方、妻子持ちなんですけど、何か勘違いをされてしまったみたいで」
木村さんには奥さんと中学生の娘さんが一人居る。昔、子役をやっていたとか言ってたけれど、そんなことは今は全く関係無く、私から見たらただの少しひょろっとしたおじさんである。
「どうしてそうなる?」
禅さんの顔がみるみるうちに険しくなっていく。まあ、元から険しかったけれど。
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