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禅さんは木村さんに私とのキスを見せつけて、諦めさせる気だったんだと思うけれど、逆に木村さんを煽ってしまったようだ。
「面倒だな。諦めろよ」
禅さんが、また私にしか聞こえない声でぼそりと吐き捨てた。
そして、静かに繋がれていない方の手が動いていく。いつの間に出したのか、その動きは木村さんに向かって銃を構えるような……
「禅さ……」
止めようとして、気が付いた。禅さんの手には銃が無い。ただ、手で銃を撃つジェスチャーをしているだけだ。その手が木村さんを指し、そして、上を向いて、私たちの背後を指す。
「木村さん、あれが何かご存知ですか?」
余裕を持った声が木村さんに尋ねた。
「あれって?」
そう言って立ち止まった木村さんと一緒に私も自分たちの後ろに視線を向けた。
「あれ、国の防犯カメラなんですよ。つまり、あなたがこのアパートを放火した姿も、包丁を持ってここにやって来た姿も、全て映っているんです。警察はこのデータを使って、近いうちにあなたを逮捕しに来るでしょうね。――あなたは、もう終わりです」
爽やかな笑みが返って怖い。
「ひっ!」
もう遅いというのに、木村さんは今さら自分がやったことを理解したのか、何も無いところで転びそうになりながら逃げていってしまった。
「まだ終わっていないんだが」
隣に居る俺様が、満足のいっていないような顔をしている。私としては十分だったと思うんですけど。というか、全部映ってるってことは私と禅さんがキスしてるところも記録されてるってことですよね? めちゃくちゃ恥ずかしい!
「一般人はすぐ警察にビビる」
木村さんの去っていった方を見つめながら、禅さんが馬鹿にしたように鼻で笑った。
「あの、ありがとうございました」
「そうじゃない」
私が軽く頭を下げると、禅さんがまた不機嫌そうな顔をした。
「はい?」
それ以外に一体、何があるというのだろうか?
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