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「ひっ! な、なんですか!?」
どんっと私の顔の横に彼の右手が勢い良く着地した。つまり、壁ドン……いや、シートドンをされている。
「お前を帰すわけにはいかない。俺の秘密を知られたからな」
「いや、あの、女性を襲ったことは内緒にしておきますから……、じゃなくて、今の状態だとあなたの顔がまったく見えなくて、誰なのか、私、理解してないですから!」
いまさらだけれど、自分の両目を自分の両手で覆って、何も見ないようにしようと試みる。実際、車内は暗くて、目の前の男の顔はまったく見えていない。でも、ずっと、冷たい視線が私に刺さってる気はする。
「見ただろう?」
「いえ、見てないです」
あなたの顔は見てないです。
「見たよな?」
「見てないです」
だから、見てないです。
「これだ」
「やめ、やめてください、あ」
彼の手に無理矢理、目を覆っていた手を取り払われて、私の目の前には黒い塊が突き付けられていた。紛れもなく銃だ……。
それに、彼がキスしそうなくらい私に近付いたから、顔が見えてしまった。今、私は見てしまった。
「霧島、禅……?」
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