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「ネックレスです」
「そんなもの、いくらでも買ってやる。だから、無駄なことは――」
「要りません。そんなものは要らない」
とても冷たい目をしてしまった。自分でもそれが分かった。でも、そんなものに何の価値も無いことを私は知っている。私が探しているのは、思い出だ。
「顔も、声も知らない母の形見なんです。私にはあれしか無いんです」
難しい顔をしてジッと私を見つめる禅さんに説明を述べる。本当は、ここまで話すつもりはなかった。だって、この人はきっとネックレスの本当の価値を分かってくれないから。
「形見? なら、どうして肌身離さず持っておかなかった?」
ほら、「それは探さないと駄目だな」と言う前に私を責める。分かってる、本当はずっと持ち歩いていたかった。
「一ヶ月ほど前にチェーンが切れてしまって、高価な物なのでなかなか直せず、持ち歩いている方が落とす危険性が高いと思ったんです」
正直に言ったって、恐らく禅さんは「馬鹿か」とか「他にも方法はあっただろう?」とか、そんなことを言って終わりだ。
「これは私の落ち度です。だから、……禅さん?」
急に私の視界から禅さんが消えたと思ったら、彼はその場にしゃがみ込んで、少し大きな燃えカスを退かし始めていた。
「禅さん、汚れてしまいます!」
私は反射的に禅さんの腕を掴んで立ち上がらせようとしていた。でも、気が付いてしまった。
「元からお前の所為でクリーニング行きだ」
禅さんが、そう言うのと同時に、自分の両手が既に煤だらけだとういうことに気が付いてしまった。
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