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「あ……、すみま、せ……」
すぐに手を離したけれど、もう遅い。禅さんの袖は煤で真っ黒だ。
「直してやる」
まるで何も気にしていないかのように禅さんが言った。
「はい?」
いつも禅さんは言葉が足りない。聞き返さないと教えてくれない。だから、意地悪なんだ。でも、優しいんだ。
「鎖を直してやる。だから、さっさと探せ」
ぶっきらぼうに吐き捨てて、禅さんの手が再び動き出す。
「は、はい」
自分から言ったのだから、人にやらせてばかりではいられない。元々ネックレスが置いてあった場所を重点的に探そうと、そこにしゃがみ込んだ。
「駒田都築」
「はい」
ぼそりと私の名前を呼ぶ小さな声が聞こえて、返事をする。
「怪我はするな」
視線はこちらを向いていないけれど、その言葉は私に向けられていた。どうして、「怪我をされると面倒だからな」って付け足してくれないんだろう。変に優しさを見せられたら、少し心が揺らいでしまう。
「気を付けます」
手元だけ見て、私は答えた。
それから一時間、いや、二時間くらい捜索して、結局禅さんがネックレスを見つけてくれた。煤で汚れていたけれど、小さなハートのダイヤも無事だった。私も禅さんも頬にまで汚れが付いていて、顔を見合わせたとき、彼が少しだけ自然と笑った気がした――。
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