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本題はここからだ、という真面目な表情に変わったのに、禅さんがどんどん服を脱いでいく。
「はい」
当然のように、流川さんが若様の脱ぎ捨てた服を拾いながら返事をする。流川さん本人から聞いた話だと、彼は禅さんのお世話係を二十年以上しているらしい。年齢は不詳。
「おい、お前、あれを出せ」
「え、あ、はい……」
一度は手渡された私の母のネックレスを、そろりとズボンのポケットから取り出して、禅さんに差し出す。直してくれると言っていたけれど、本当に甘えて良いものなのだろうか、と思ってしまう。
――もしかして、あとから多額の修繕費を請求されるんじゃ……?
「宝石商の繋がりで修繕の職人が居ただろう? これを直すように言え」
「分かりました」
私が思い直したときには、既に禅さんが流川さんに指示を出したあとだった。
「あの、やっぱり悪いですから、修理には私が自分で」
出しに行くんだか、職人さんから探しに行くんだか分からないけれど、取り敢えず、言葉だけは口に出してみる。だって、直してもらう義理が無い。
「すぐに直すように言え。金はいくらでも出す」
――無視だ! この俺様!
「だから、そんなことしなくて大丈夫です。なんで私なんかのためにそこまでしてくれるんですか? やっぱり恩を数えているんですか?」
「恩を数える? 何を言っているのか分からん。お前は猫と一緒だな」
――にゃーにゃー鳴いてる妹子と一緒? 私が?
何か文句を返そうとしたけれど、禅さんが服を全て脱いでしまったから、また私は彼の方を見れなくなってしまった。どうして、この人はこんなにも堂々と人の前で服を脱ぐのか。
「駒田都築、鈍感! すごい鈍感!」
そう言ったのは流川さんだ。
「どういう意味ですか?」
「いや、私の口からは言えない」
ムスッとした顔で問うても、そう返されるだけだった。その間に禅さんの気配がバスルームに消えていく。
「流川さん、どういう意味なんです? ヒントをください」
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