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主人が居なくなれば答えてくれるだろうと思い、改めて尋ねてみた。
「……聞かなかったことにすると誓うか?」
私の隣にやってきて、流川さんがこそこそと言う。この人は意外とおしゃべりなのかもしれない、と思った。
「誓います」
流川さんから聞けるであろう『禅さんの思っていること』を聞かなかったことにするなんて容易いことだ。どうせ飼い主としての自覚が芽生えた、とか言われるに決まってる。
「分かった。教えよう」
そう言った流川さんに手招きをされ、部屋の角まで誘導された。妹子が流川さんに懐き過ぎていて、彼の足から離れない。珍しくみゃーみゃー鳴いていて、良い感じに話声をカモフラージュしてくれそうだ。
「最近の若は絶対におかしい。タバコはやめたし、赤の他人のために命を掛けて敵の船に自ら入って行くし、人に謝るし、何より、優しくなった。お前は若に気に入られているんだよ、駒田都築」
何故かフルネームで呼ばれる状態が続いているけれど、私はどうやら、若様のお気に入りになったらしい。でも、どうしてだろうか。そこが分からない。
「私のどこを? ただの一般人ですよ?」
「そこだ。普通なのが良いんだ。いや……貧相、か」
――貧相!?
思わず、自分の胸元を両手で隠してしまった。
「まあ、そういうことだ。私は若の服をクリーニングに出してくる。妹子と大人しくしていろよ? 私から聞いたことは内密に」
そう言って、流川さんは禅さんの着替えを用意して、汚れた服を持って部屋から出て行ってしまった。恐らく、私の「分かりました」という言葉は彼に聞こえていなかっただろう。
――俺様な若様が私を気に入っているなんて、詳しい理由をいつか教えてもらえるだろうか? それに、不眠症の原因も……。
リビングに私と妹子だけになって、彼女が寂しそうに「なーん」と鳴いた。
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