Epilogue

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Epilogue

 理久は昨夜、咲良ちゃんに別れを切り出したらしい。朝起きると、咲良ちゃんはいなくて、タキシードと手紙が置かれていたそうだ。  手紙には、別れを受け入れると書いてあって。咲良ちゃんは前から理久と私の睦まじい様子にいつか別れることになるのではないかと感じていたらしい。  手紙の中で私の料理にだけこっそり激辛スパイスを入れたり、私が作ったご飯をわざと食べなかったり、冷たくしてしまったと侘びていた。  そして、今日、私がギャラリーのアトリエで絵のモデルをすること。その作品のタイトルが《初めての夜》であること。理久がタキシードに着替えてギャラリーに来ないと代役(村坂さん)を立てると書いてあった。  その脅しのような一文を読んだ理久は慌てて着替えてギャラリーに駆けつけたわけだ。  あれから理久は私にキスをさせてしまったことをずっと悔やんでいて、もう友達には戻れない、と思っていたんだって。  たった一秒のあのキスに私達はどうやら同じことを想っていたみたい。 * 秋が来た。  赤や黄色の葉が街を彩るNYのギャラリーで私達によく似た花婿と花嫁が描かれたアートを手を繋いで一緒に見ている理久と私はもう、友達ではない。世界のあらゆる場所にいる、普通の恋人同士だ。  私達とは少し離れた場所でロスから観に来てくれた沙羅が難しい顔をして咲良ちゃんから絵の説明を受けている。咲良ちゃんは私に冷たくしていたことを謝ってくれて、私はそれを許した。彼女は今ではアートを楽しむようになった私の友人の一人だ。  ふいに、沙羅と目が合い微笑みあった。  ここはドルチェではなかった。けれど、あの頃のように沙羅がいて温かく、そして理久がいて甘い、ハニーミルクの様な時間の流れる異国の午後だった。
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