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新しい形
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「……はぁ、っ、…、」
新しいマンションを飛び出して
来た道をひたすらに戻ってみたけど
ひろの姿は見つからなくて
気持ちだけが焦って、息も上がってくる。
もう人もまだらな交差点で足を止めて
辺りをぐるりと見回しても
姿が見当たらない。
「…あ、そうだっ、携帯……、」
連絡を入れればいいことに今更ながらに気づいて
手にしていたカバンを探ると、焦っていたせいか
カシャン…、と落ちてしまった。
慌てて拾おうと屈むと、
街灯の光が重ねた、ひとつの影。
「……ミキっ、」
そして、私と同じくらいに息を切らしたその声。
「……え………、」
屈んだまま顔を上げると
白い息を吐きながら、肩を上下させてるひろの姿があった。
「な、んで──、
呆然と見上げた私にその影がひとつに重なり
安心する香りが私を丸ごと包み込んだ。
「…めっちゃ探した…、」
「え…?なにを…?」
ひろの早すぎる鼓動と比例して
私の鼓動も、頭が追いつかないくらいに早くなってくのが分かる。
「………ミキ、戻ってきて。」
まだ少し乱れてる息の中
冷たい空気がその声を私の耳に届けてくれる。
「…好きなんだ、ミキのことが」
さっきまで私が伝えようとしてた言葉、
ずっと伝えたくて、伝えられなかった言葉。
その言葉が今
奇跡のように、目の前の彼から降り注いだ。
「……っ、わたしも……、
私も、ひろが、すき…っ、」
零れた涙。
でもこの涙は、さっきまでひろの前で堪えていた悲しい涙じゃない。
「すき……っ、ひろが、すき──、
何度も伝えずにはいられないその言葉を遮るように重ねられた唇は
寒さで冷たいはずのに、温かくて。
触れるだけですぐに離された唇に
涙で滲む視界の中、目の前のひろを見上げた。
「なに泣いてんだよ」
「…っ、だ、だって……っ、」
目じりに皺を寄せる優しい笑顔で
零れる涙を掬い上げるように拭ってくれ
そのまま真っ直ぐに、私を見つめた。
その瞳は吸い込まれそうに綺麗で
どうしようもなくまた、胸が苦しくなるほど愛しさに溢れて。
「今度はペットじゃなくて
俺の彼女になってくれる?」
少し照れたようにそう言ったひろに
答えなんてもう、ひとつしかなかった。
「……っ、わんっ…、!」
「ふっ、
お前全然ペットの癖抜けてねぇじゃん」
ペットという形から始まったこの”愛”は
形を変えて、本物の”愛”に。
でもきっと
どんな愛でも求めてしまうものは、みんな同じなのかもしれない。
そして私が今こうして見つけたのは、
ずっと知らなかった”恋”という名の
”愛”なのかもしれないな、って。
欲しかった愛と、知らなかった恋。
━━━Fin.
番外編に続きます( ˆ ˆ )
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