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出会い
───別れよっか、俺ら。
何度目なんだろ、こうして振られるの。
でも、そんな気はしてたからか
振られることに慣れちゃったのか
そんなにショックはないの。
それよりもなによりも
先週誕生日だった彼を祝った金銭的なこととか
彼の部屋に置きっ放しにしてるお気に入りの部屋着のことが
真っ先に頭をよぎる私って、
・・・最低。
「また振られたの?!」
「はーい、そうでーす」
振られた足でそのまま行きつけの居酒屋へ。
決して綺麗な店ではない
サラリーマンがフラッと集まるようなとこ。
でもそんな気楽なとこが居心地よくて
頻繁に通ってしまってる
寂しい30手前の女、橋本ミキ。
「あーあ、なんかもうどうでもいいなぁ~」
ビールを掲げてヘラヘラしてると
ここの看板娘のリコちゃんと、頭に手拭いを巻いた店長に呆れた顔をされた。
「いい加減ちゃんとしたら?」
「…えー…、”ちゃんと”、ってなに?」
”ちゃんとする”って何なんだろ。
・きちんとする。
・自立する。
・しっかりする。
ググってみても正確な答えなんて分かんないし
お酒で頭が働かない今の私じゃ、なーんも考えられない。
目の前の文字たちが
私を攻めるかのように、ゆらゆらと揺れた。
「たすけてぇ…、リコちゃん…」
「はいはい、飲み過ぎだよっ」
携帯片手にテーブルに項垂れた私の目の前に
ドンッ…、と置かれた焼酎と見せかけたお水。
今の私じゃこのお水でも酔っ払っちゃいそ~、
なんてヘラヘラし続ける私に
冷めた目を寄越してからそのまま
すいませーん、って他のお客さんに呼ばれて行ってしまった。
残された私は一人。
「……きれいだねぇ…、」
この透明で綺麗にユラユラ揺れてる液体に
このまま混ざって溶けてしまいたくなる。
そしたら私のいまのこの気持ちも
綺麗に浄化されるんじゃないかなぁ…、
・・・なーんて。
「……ごめん!わたし、かえるっ!!」
「え?」
「はい、お会計っ!」
「あ、う、うんっ、大丈夫なの?」
突然立ち上がってテーブルの上の伝票を
勢いよく突き出した私に、困惑するリコちゃん。
「へいき!またくるねっ!」
気をつけるんだよ~、って見送られながら
まだ賑やかな店をあとにした。
すっかり真っ暗になった夜道
ふと立ち止まって空を見上げると
無数の星が輝いていて。
今の私のこの状態じゃ
それだけでもう涙が滲みそうになる。
「………っ、」
ジワっ、と目の奥が熱くなって
ギュッと唇を噛み締めた。
何が悲しいのか分かんない。
──愛ってなに?
──恋ってなに?
振られる度にメキメキとメンタルが強くなるかと思いきや
メキメキと音を立てて、心が少しずつ壊れてってる気がするよ。
振られることがショックなんじゃない。
振られる自分が嫌いなの。
水に溶けてしまいたい、なんて
お酒が入ってるにしたって、相当やばい思考になってる。
「はぁーーーぁ……、」
見上げる真っ暗な空はこんなに広くて大きいのに
私はなんでこんなちっぽけなんだろ。
どうしてこんなにも狭い世界で
息苦しくもがいてるんだろ。
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