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かいぎ、かいぎ。
お前、そのうち絶対呪われるぞ。
社員食堂にて。俺が真顔でそう告げると、同僚の島田は“そりゃいいや”と笑った。
「むしろ早く呪われてほしー!だって俺、なんだかんだで一度も幽霊とかそういうの見たことねーんだもん。実在するなら見たい。確実にバズるじゃん」
「あのなぁ……」
危機感がないにもほどがある。俺は呆れるしかない。
明るくムードメーカーな島田は、学生時代からの俺の友人の一人である。示し合わせて一緒の会社に入ったわけではないとはいえ、普通に付き合っていく分には気前もいいし気も利くしけして悪い奴ではない。悪い奴ではないのだが、SNS中毒気味でちょいちょい暴走するところだけはどうしても付き合いきれないなと感じてしまうのだった。
ヨウチューバ―を目指した時もあった、らしい。
しかし流石に現在の人気ヨウチューバーの様子を見て、自分ではそこまでにはなれないと早々に諦めた、らしい。
それでも自分が注目されるのは楽しいということもあって、法律に違反しない範囲で危ないことをしてそれをSNSにアップするのが趣味になっている、らしい。いや、だからって毎週のようにひとりかくれんぼに勤しんだり、わざと事故物件を借りて実況中継したり、呪われると有名なオカルトスポットに足を踏み入れまくったりするのはいかがなものだろうか。不法侵入や器物破損にならない範囲には収めていると本人は言っているが、アカウントの炎上ぶりを見るにそれも正直怪しいと思っている。罵倒されたりするのも目立てれば楽しいなんて、もはや狂っているとしか思えない。
注目されることができるなら、幽霊に呪われるのも辞さない、むしろ大歓迎なんていう考え方も。
「こんなこと言いたくないけどさ」
今は例の感染症の影響もあって、食事は斜め前の席に座り、少人数で行うようにと会社でも徹底されている。透明の衝立ごしに、にこにことサラダを啄む島田を見ながら俺は言った。
「悪霊とか妖怪とかカミサマとか……とにかくそういうものの呪いっつーの?それって、やらかした本人だけに影響が出るとは限らないって聞いたぞ。勘弁してくれよ、お前がなんかやっべー奴引っ付けてきたせいで、俺らまで巻き込まれて呪われるの」
「えー?家族とか恋人とかでもないのに巻き込まれるってそうそうねーと思うけどなー。つか三木お前びびってんの?」
「非常識だっつってんだよ、馬鹿」
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