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『先週からの続きとなりますが、アルガに関する資料は以前こちらで運営されていた大映デパートの業績・集客率というものが大きく参考になると思われます。こちらのグラフをご覧ください。……ので、一番多い……層は年配の……ゆえに……』
「音小さいな……聞こえづらいぞ島田……」
画面の中、真ん中に島田のプレゼンを置き、周囲を他の参加者の顔映像が四角い枠で取りかこんでいるという形式だ。最初は特に問題がなかったのだが、段々と島田の声が聞き取りづらくなってきた。映像にも、時折ぶつぶつと途切れるようになる。通信状況が悪い、わけではなさそうだ。なんせ他の上司たちの映像は問題なく届いているのだから。
島田のつけているマイクの調子が悪いのか、あるいは島田が設定をミスっているのか。さすがにプレゼン中の人間に注意しに行くわけにもいかないしな――と仕方なく俺はパソコンの内部音量を上げた。
すると、島田の声はどうにか聴きとれるようになったが。代わりに、別の音も大きく聞こえてくるようになったのである。最初は、風の音が煩くて島田の声が聞こえない、のかと思っていた。だが、よくよく耳を澄ませてみると何かがおかしい。風の音にしては、響きが一定の高さを保っているのだ。
――またノイズか?それとも……。
さらに音量を上げる。
そして、俺は。
『ア゙――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――……』
それが。
低く呻くような、女性の声に極めて近いことに気づいてしまったのである。
「!?」
映像が、ブレる。
スクリーンを指さす島田の腕が、飴細工のようにぐにゃりと曲がる。
かと思えば、首がぐるんと回って真後ろを向く。
にこにこと笑顔を浮かべる口元は突如として耳まで裂ける。
妊婦のように腹が膨れ、顎が腰のあたりまで伸び、目玉の片方が潰れ片方が本来の顔と同じくらいの大きさまで引き延ばされ、彼が動くたびに全身がびたんびたんと奇怪なダンスを踊るように揺れ動く。
そしてそれらの異変は、瞬きした次の一瞬には元に戻り、今までと同じなんら変哲もない島田の姿に戻っているのだ。
――なんだこれ。
かと思えば、島田の片足だけが蛇腹のようにぐちゃぐちゃに捻じ曲げられる。
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