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春。草太と出会った、あの、心を浮き立たせる土と花の匂いのする季節。大学へ通うために、草太は家を出て一人暮らしを始めることになった。
「もうおばあさんなんだから。何かあったら、すぐに病院に連れて行ってやってよね」
なんて、お母さんにしつこく言って、家を出る直前まで心配そうに私の身体を撫でていた。
「おいていきたくないけど、『猫は家につく』って言うし。ずっと暮らしてきた家にいる方が良いよね」
そうだよ。それで良い。一緒に居たいけど、弟に迷惑かけたくない。なのに、起き上がれなくなった私に草太は毎週のように会いに来た。
「バイト代、置いてくから。何かあったら絶対に病院に連れて行って」
お母さんに釘さして帰って行った草太に申し訳なかった。動物の医療費は高くつくのでしょ? お母さんが言っていたから知ってる。
お金も時間も自分のために使って良いんだよ。でも、私を思ってくれる気持ちは、とっても嬉しかった。
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