5人が本棚に入れています
本棚に追加
「光希が大学二年になった年の8月、夏休みに入って少ししてからカナダに行ってね。9月末に帰ってくる…はずだったんだけど、帰りの飛行機が事故で…」
突然伝えられた、光希の死という宣告。
その重い内容とは裏腹に、それはまるで興味の無い棒読みの台詞をなんとなく流して聞いているような、そんな感覚。
落ち着こうと思い、あえてゆっくりとする呼吸は、こらえる涙に押されて震えてしまう。
「ホントは退院するまで黙っていようと思ったんだけど…ごめん」
当たり前だけど、ぜんぜん実感が湧かない。
「……んーん…、いいよ…。先に伸ばしたって事実が変わる訳じゃないから…。言ってくれてありがとね…、遥希……」
少しでも流れる涙をこらえようと、遥希の服をギュっと握り、引っ張る。
遥希はそれに反応するように、私を引き寄せた。
軽く包まれて感じる遥希の腕の中は、なんだかちょっぴり心地良く、それがまたいっそう私の心を激しく傷めつける…。
「…ゴメン、遥希」
そう言いながら遥希の腕をそっと振りほどき、一歩下がる。
振り返り、イチハさんの顔を見てつい助けを求めた。
複雑な感情はめちゃくちゃに絡まり続け、次第に訪れる空虚な心の中に、冷たく渇いた風が吹きぬける。
守られなかった、たくさんの約束を思い出してしまう。
光希の声、笑った顔、いつも握りしめていたおっきな手。
いつもそばにいてくれた光希は、どこに行ってしまったんだろう。
この悲しみと苦しみに対する恨みや怒りの矛先は、いったいどこに向ければいいんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!