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がたがたと窓を揺らす、乾いた風の音。
ほんの10分前まで晴れていたのが嘘のように、空は夕立の前のように真っ暗になっていた。
「…紗織ちゃん、大丈夫…?」
沈黙を破ったのは、イチハさん。
「んー、俺に求めてることは分かるんだけど…ゴメン。慰めの言葉をどんなに探しても見つからない。何を言っても無責任な言葉になっちゃうだろうから、何も言えないよ…」
「……うん、大丈夫です。…ありがとう…」
「俺、ここには場違いな感じだからさ、今日はとりあえず病室に戻るわ。また明日、中庭で話そう」
イチハさんはそう言い残し、自分の病室へと帰って行った。
遥希と二人になり、さらに沈黙は続いた。
一体何が起こっているというのだろう。
不治の病と言われた病気は治りつつあり、命は助かった。
…でも、でも…
私の知る時代とは大きく変わり、一番大切な人がいない世界。
『あのまま病気で死ぬより…本当にこれで良かったのかな?』
そんな考えすら浮かんでくる。
もしもコールドスリープをしないでいたら、少なくとも半年は光希といれた訳だし…もしかしたら光希だけは死なずに済んだのかもしれない。
なんとか命が助かって、なくなりかけていた未来への道が現れたはずなのに、その道の先には光希がいないなんて…。
私の未来はもう見えない。
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